第三の理/補足●
位相幾何学的グラフ理論
グラフ理論で扱うグラフとは点と線からなる図形のことだった.
そのグラフを曲面の上や空間の中に配置することで,
どんな現象が起こるかどうかを研究するのが「位相幾何学的グラフ理論」である.
古くは地図の色分け定理と関連して,
閉曲面上に最大何個の点までを配置してそのすべての組を線で結べるかという
問題が議論されていた.
例えば,浮き輪の表面(トーラスと呼ぶ)だと,
7 点を配置して,そのすべての組(全部で 21 組)を線で結ぶことができる.
また,平面に線の交差なしで描けるグラフを特徴づけるという問題も有名である.
最近では,
閉曲面上の閉曲線とグラフとの交点の個数とグラフの性質との関係を考察する
という研究が多い.
ちなみに,私は日本国内における位相幾何学的グラフ理論の
パイオニア的な存在である.
実際,東京工業大学の大学院生だった頃から位相幾何学的グラフ理論の研究を続け,
次のような研究分野を切り開いてきた.
- ・ 閉曲面上のグラフの埋め込みの一意性と忠実性
- 閉曲面への埋め込み方が 1 つしかないグラフや
グラフ自身の対称性が閉曲面上の対称性として実現できるための
条件に関する研究.
近年のグラフの再埋蔵構造の研究の基礎になっている.
- ・ グラフの被覆空間と平面性
- 「グラフの有限被覆空間が平面的ならば,
そのグラフは射影平面に埋め込み可能だろう」という
予想({\bf 1-2- \infty 予想}という)に関する研究.
この予想は,1988年の論文の中で私が提起して以来,
10年間未解決のままである.
- ・ 空間グラフのラムゼー定理
- 適当なグラフの族の中で,
ある程度頂点数が多いものは,
どのように空間に埋め込んでも,
あらかじめ指定しておいた結び目や絡み目を含んでしまうという
現象に関する研究.
トポロジーと組合せ論が見事にドッキングする.
- ・ 閉曲面の三角形分割の対角変形
- 対角変形という操作によって頂点数が等しい閉曲面の三角形分割は
移り合うという命題を巡って展開された研究.
この研究に触発されて,
中本君の「閉曲面上の四角形分割の対角変形」に関する
研究がスタートした.
- ・ グラフの多項式不変量
- グラフの不変量になるように定義された多項式に関する研究.
多項式が潜在的に含んでいるグラフの情報や不変量としての強弱を議論する.
いわゆる{\bf 根上多項式}がそれである.
近年の結び目理論とも密接な関係がある.
最近は,グラフ理論に関する本がたくさん出版されているが,
位相幾何学的グラフ理論となるとほとんど存在しない.
例えば,次の本は,位相幾何学的グラフ理論に関して日本語で書かれた
最初の本である.
とはいえ,その内容は極めて初歩的であり,
専門的に勉強をするには,
そこに書かれている知識だけでは不十分である.
前原 濶,根上生也著,『幾何学的グラフ理論』(朝倉書店)
また,次の本には,
位相幾何学的グラフ理論の入門的な話が書かれている.
それは位相幾何学的グラフ理論全体を概観するというよりも,
「万華鏡」の名にふさわしいある問題を探求するという話が書かれている.
小竹義朗,瀬山士郎,玉野研一,根上生也,深石博夫,村上 斉著,
『トポロジー万華鏡 II』(朝倉書店)
位相幾何学的グラフ理論の専門的な内容について,
さらに情報がほしければ,
私のホームページ
を覗いてみるとよい.
位相幾何学的グラフ理論における未解決問題や
自称パイオニアの責任として私が毎年開催している
「位相幾何学的グラフ理論研究集会」
(平成の年号と同じ回数だけやっている)に関する情報が得られる.
negami@edhs.ynu.ac.jp [1998/5/1]