「無限」や「連続」という言葉で象徴される通常の数学と異なり, 離散数学(英語では“Discrete Mathematics”という)は, 「有限」と「不連続」の数学である. 古くは「有限数学」という言葉もあったが, 今ではそれを使う者はいない. 私は好きではないが,「組合せ論」とほぼ等価と考えている人も多い.
その研究対象は,必ずしも有限ではないが, 有限的な手法で定義できる離散構造である. 例えば,点と線からなる図形であるグラフが その典型的な例である. その図形としての姿を無視すれば, 有限個の点と線で結ばれている点の組を列挙することで, グラフの構造は特徴づけられる.
そういう数学的な意味合いとは別に, 私は「離散数学とは,図と言葉で論証する数学だ」ということにしている. 数式を使って計算することもないわけではないが, 与えられた状況を図にして, そこに表現されている構造を言葉に置き換え論証する. すでに本編を読み終わっている人なら, この構図が何に符合するかはおわかりだろう.
高校数学の範囲で最も離散数学に近い単元といえば, 「個数の処理」である. 三角数やら四角数やらが登場してくるところである. そこでは,漸化式を解くことがご法度になっているため, 物の並び方の構造に着目して,立式しなければならない. 言葉による論証まではいかないが, 上で述べたことによく似ている.
しかし,極めて残念なことに, いずれは「数列」をやるのだからと, 「個数の処理」が軽く扱われているのが現状のようである. それだと離散数学の精神が全然活かされない. さらに,確率や統計の下請けとして, 場合の数の計算を指導するのだと思い込んでいる人も少なくない. 離散数学は,確率や統計というよりも, むしろ代数や幾何に発展していくものだと捉えた方がよいのに….
そもそも,離散数学の精神どころか, 日本の教育の現場には「離散数学」という言葉自体が まるで浸透していない. そもそも,日常生活で「離散」という言葉を耳にすることはまずないし. あえて頭に浮かぶものを記すと, 「一家離散」くらいである. 離散どころか,悲惨なイメージが心に残ってしまう….