第三の理/第8話
念力

 また私は空を飛んでいる. 回を重ねるたびに,気の塊をうまく利用し, その存在をほとんど意識しないでも,空を飛べるようなってきた. 私の浮揚術はさらにどのような発展をしていくのだろう. そう思いながらゆっくりと着地し,その場に腰を下ろした.

 今思えば,そこは私が子供の頃に見た道路だったような気がする. その道路はまだ舗装されておらず, 土がむき出しになっていて,小さな石がいくつも転がっている. 小さいといっても, 道端の石を拾って無邪気になれるくらいの 幼い子供の手にとっては,十分な大きさだった. そして, 乾燥した地面は 「突発的に風が吹いたら…」と私の警戒心を煽っている.

 その光景を見ているうちに,私はうまいことに気がついた. すでに述べたように,私の浮揚術は気の塊を巧みにコントロールすることにある. その気の塊に乗って,私は宙に浮くのである. となれば,私に限らず,何かをその気の塊に乗せることができれば, それを宙に浮かすことができるのではないか?~ この発想に立って,いわゆる念力を会得しようと試みた.

 まず,手ごろな大きさの石を見つめて,そこに意識を集中する. 私の得意とする気の塊を制御して, その石の下にそれを潜り込ませることができれば第一段階クリアだ.

 しかし,石と地面の隙間をイメージすることが難しくて, なかなか,その隙間に気を滑り込ませることができない. 右から左からと責めまくるうちに, その隙間を拡大する方法を思いついた. 私の警戒心をくすぐっていた埃に協力してもらうのである.

 石と違って,埃なら気の塊をぶつけることで簡単に移動ができる. 石の底面の際にある埃を気によって吹き飛ばし, その瞬間にできるわずかな隙間の中に,気の塊を滑り込ませるのだ.

 「よし!」

 これでいける. いったん石の隙間に気の楔を打ち込むことができれば, それを叩き続けて大きな隙間を作る. そして,一気に持ち上げてやれ. しかし,そうも行かず,石は 1 cm 程度宙に浮いたところで止まった. それを落とすまいと,その下の空間に気の塊の台を形成していく. これで何とか静止状態が維持できそうだ.

 石の静止に慣れてくると, 台を形成している気の塊とは別の気をそこに送り込む余裕が生まれてきた. そこで,一気に大量の気を注入すると, 吹き上がる気に煽られて,石は 1 m ほど持ち上がった. しかし,この状態を維持するのはかなり辛い. この辛さを意識しないですむようになれば, 私の念力も完成するのだが….

 と,眼球の筋肉に力を入れ,新たな気の流れを送り込むやいなや, 石は爆発し,消滅した!

  「おお,恐ろしい.今のは何だったんだ?」

 この感情の高まりが,私を夢の世界から現実の世界に引き戻してしまった. つまり,目が覚めてしまったのである.


つづく

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negami@edhs.ynu.ac.jp [1998/6/26]