本屋さんとして有名なのは「三省堂書店」で, 神田神保町にその本店がある. 辞書の出版で有名な「三省堂」はこの本屋さんとは別物. もともとは古本屋に始まる 1 つの会社だったが, 現在は完全な別会社として経営されている.
私が後者の「三省堂」の本社ビルを訪ねたときに通された最上階の会議室には 横長の大きな額縁が飾ってあった. その中には 「吾日三省吾身」 という書が納まっている. 「我,日に三度,我が身を省みる」と読む. これは『論語』の学而篇の言葉で, 「不忠、不信、不習について,一日に三回は,反省すること」 だそうだ. 決して, 1 日に 3 回も反省するような失敗をしてしまうという 意味ではない. これが社訓であり,三省堂の名前の由来なのだろう.
また,三省堂の高校数学の教科書の存在も忘れてはならない. 公式ばかりが書き綴られている某社の教科書と違って, わかりやすい説明文が多く,ユニークな構成になっていると好評である. しかし,ファンは多いのに,高校での採択率が低い. これはどういうことなのだろうか? 大きな声では言えないが, かつて文部省の教科書調査官だった方が, こういう教科書が売れなければ日本の数学教育はよくならないと言っていた….
ところで,多少考えすぎのような気もするが, 「三省堂」 という名前はハノイの塔を暗示している. 「堂」を「塔」に読み替えれば, 「三つの理を省みる塔」 と解釈できるではないか. 物の理,人の理,そして,第三の理. そこが私の学者としての起源の地であることも合わせて, これは単なる偶然の一致なのだろうか….