第三の理/補足○
エントロピー

 もともとは熱力学の用語で, 物質の状態の無秩序さや乱雑さを表す量. また,情報量を定義するものとして情報理論にも登場する.

 簡単に言うと, エントロピーは状態の質を表す量である. 滅茶苦茶で無秩序になればなるほどその値は増加し, 逆に,組織化され構造が作られてくるとその値は減少する.

 熱力学的には,孤立した系のエントロピーは時間とともに増加する傾向にあり, 決して減少することはない. これがいわゆる「エントロピー増大の原理」である. その孤立した系とは外界と物質やエネルギーのやり取りがない系のことである. 例えば,宇宙全体は孤立した系と考えられるので, 宇宙全体のエントロピーは増加し続け, 最終的には無秩序な平衡状態に至ると言われている.

 しかし,生物たちはエントロピー増大とは逆の営みをしている. 生物の体の仕組みは極めて組織的であり複雑な構造をしている. そういう生物たちがその数を増やし地表を覆っていけば, 地球全体のエントロピーが下がっていく. さらに,私たち人間が作る社会的な組織や建造物は, 地球のエントロピー減少に大きく貢献しているだろう.

 人間といえども熱力学の支配を受けている. それにもかかわらず, 人間はエントロピー増大の原理に背いて生きているのだ. そこに人間の存在の特殊性がある. やはり, この世の中がこのような姿で存在している理由は 「物の理」だけではない. 「人の理],さらには「第三の理」も必要だということなのだろうか….

 余談ではあるが, 人間は必ずしもエントロピーが下がることを好むわけではない. 例えば,ビールのつまみになる「柿の種」を考えてみよう. ピーナッツと煎餅がきれいに分離したときに, 柿の種のエントロピーは最小になる. エントロピーが増加するとわかっていても, ピーナッツと煎餅が一様に混ざった柿の種の方が好まれる. また,カレーもそうだ. ジャガイモやニンジンの姿が残っている作りたてのものよりも, それらが煮崩れた 2 日目のカレーの方がうまい.


negami@edhs.ynu.ac.jp [1998/5/1]