第三の理/補足○
イデアル三角形

 複素平面の実軸よりも上の部分を上半平面という. 上半平面において,特殊な方法で距離を定義すると, いわゆる平行線の公理が成立しない 非ユークリッド幾何の世界ができあがる. その世界では,実軸に中心を持つ円弧が“直線”の役割を果たす. その直線を 3 本組み合わせれば三角形領域が 1 つ定まるが, その 3 個の頂点(直線の交点)に相当する部分が すべて実軸上に乗っているとき, その三角形領域をイデアル三角形と呼ぶ.

 実は,実軸の部分はこの世界には含まれていない. さらに,この世界の距離に従って長さを測ると, それは無限に遠いところに位置している. つまり,実軸に向かって上半平面の中を歩いていくと, 自分自身がしだいに小さくなってしまい,歩幅もどんどん短くなっていくので, いくら歩いても実軸には到達できないのである. したがって,イデアル三角形の頂点は この世界からはみ出たところにあり, それを構成する 3 本の円弧はこの世界では無限に長い.

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図1. エッシャーによる天使と悪魔の繰り返し

 ところで,あなたは円板の中に天使と悪魔が敷き詰められているエッシャーの絵 (図 1)を見たことがあるだろうか? その絵でも,円板の周辺に近づくと,天使や悪魔がどんどん小さくなっていく. 見様によっては,曼陀羅のようにも見える. 実は,このエッシャーの世界と上半平面と適当な変換式のものとで 対等なものなのである. 曼陀羅からイデアル三角形の図に至る検索過程で, 私はこのエッシャーの絵を見ていたにちがいない.


negami@edhs.ynu.ac.jp [1998/5/1]