自然数 n に関する命題を証明するための手法. 通常は次の手順を踏む.
II. n = k-1 のときにその命題が成り立つと仮定して, n = k のときにもその命題が成り立つことを示す.
III. 「したがって, 任意の自然数 n に対してその命題が成立する」と結論する.
これはちょうど「ドミノ倒し」のようなものだ. 手順の II は 1 つ前まで倒れればその次も倒れることを意味している. だから,最初の 1 つを倒せば(手順の I), ドミノは次々に倒れていって, 最終的にはすべてが倒れる. これが手順の III における結論である.
例えば, 1 から n までの整数の総和が n(n-1)/2 になることを 数学帰納法で証明してみよう. 1 + 2 + … + (n-1) + n = n(n+1)/2
II. n = k-1 のときに上の公式が成り立っていると仮定すると,
III. したがって,任意の自然数 n ≧ 1 に対して, 公式が成立する.
しかし,この公式を示すのに, 数学的帰納法を使うのはあまり感心しない. というのは,次のように考えると, その公式の意味がすぐにわかってしまうからである. 1 と n , 2 と n-1 , 3 と n-2 というように, 前と後ろから順に組にしていくと, 全部で n/2 組が作れて,そのどの組の和も n+1 になっている. 1 から n まで足すと n+1 が n/2 個できるのだから, その値は n/2 × (n+1) = n(n+1)/2 になるのである.
このように,意味や構造を考えるとすぐに答えが見えてくる問題は, その意味付けを明示するような直接的な方法で証明する方がよいと 私は思っている. 数学的帰納法や背理法のような間接的な証明方法は 最後の手段としてとっておこう.