数学の研究で業績を作るには, 適当な数学の問題を解いて,定理の形にまとめ,論文を書く必要がある. それも,今までに誰も解かなかった問題を解かなければならない. とはいえ,人が解いていなければ,どんな問題でもよいわけではない. 歴史的に未解決な問題ならば無条件によい問題だが, それなりに面白さや価値の感じられる新しい問題を自分で作る必要もある.
例えば, 1 から 100 兆までの自然数を実際に足した者など, 地球上のどこにもいないだろう. でも,そんな問題を自分で作った問題だと主張して, その解法を論文に書いても, 誰も見向きもしないことは明らかだろう.
では,どういう問題がよい問題なのか? それを明文化するのは難しいが, 数学を研究する者たちは,それなりのセンスを持っていて, それに従って,問題の価値を判定する.
私と中本君も,自分たちの研究分野の問題について, それなりの価値体系を持っており, 以下のようなレベルを設定している.
この他にも,卒業論文,修士論文,博士論文のネタになるかどうかという 価値のおき方もある. それぞれ「卒論ネタ」,「修論ネタ」,「ドク論ネタ」という. ただし,ドク論ネタは論文ネタと同レベルである.
ところで,よく 「論文にならない問題を解いてもしかたない」 と言っている人をよく見かける. しかし,私が大学院生を指導するときには, 論文になろうとならなかろうと, 自分自身で数多く問題を解くことを体験してもらう. 雑談ネタもよし,セミナー・ネタもよし. 小ネタでよいから,問題の解き癖をつけることが重要である. 難しい問題だけを追いかけて,「だめだ,だめだ」とぼやき続けていると, 自分自身がだめになりかねない.
と言いながらも, 私自身, 10 年間追い続け,解決できないでいる問題を抱えている. それは「 1 - 2 - ∞ 予想」という問題で, 私自身が提起した問題である. ここではこれ以上は述べないが, 関心のある読者は次の本を参照してほしい.
なお,この「 3 段階」とは,以下のように, 数学に対する関心の持ち方に従って, 「ネタ」を分類したものである. その 3 つの段階と対応して 1 つのテーマを 3 つの異なる話として展開している点が, この本の売りである.
どの段階の話をおもしろいと思うかは読者しだい. 例えば,「数学者編」は大学生を元気にする効果があるようだ.