空間グラフのラムゼー定理

 ConwayとGordonは,6頂点の完全グラフをどのように空間に埋め込んでも, その中に自明でない絡み目があり, 7頂点の完全グラフの中には自明でない結び目が含まれていることを示した. その完全グラフが含む絡み目や結び目の型を特定できるかどうかという問いと, この現象がある種のラムゼー現象と見なせるのではないかという発想から, この研究が始まった.[論文26, 40, 43, 44, 45]

 そもそもラムゼー現象とは, 物の個数が十分に多くなったときに現れる回避不可能な現象のことで, それを述べた命題がラムゼー定理である. 論理学者であるRamseyによってこのスタイルの定理が提起されて以来, 組合せ論的集合論の一分野として,いろいろな定理が示されている. 集合論的なものから整数論や初等幾何的なものまで, 様々なラムゼー定理が知られているが, 結び目や空間グラフのような連続的な対象に対するラムゼー定理が示されたのは, この研究が初めてである.

 その空間グラフのラムゼー定理は 「十分に頂点数が多い完全グラフをどのように空間に埋め込んでも, あらかじめ指定しておいた結び目または絡み目を含む」という形の定理である. とはいえ,無条件ではこのスタイルの定理は成立しない. そこで,当初は,辺が直線分になる空間埋め込みに限定して,この定理を成立させた. さらに,埋め込みの限定を弱めるための研究や完全グラフ以外のグラフの族に対して 同様の定理を示そうという研究が進められた.

 宮内美樹氏(現在,NTT研究所員)は, 私の空間グラフのラムゼー定理をもとに, 完全2部グラフに対する同様の定理を示し, 空間グラフに関するより具体的な現象を探求することで,博士論文をまとめている.


●おわり● [1998/5/10]

negami@edhs.ynu.ac.jp