球面の三角形分割は頂点数が等しければ
互いに対角変形という操作によって移り合うという定理は
1930年代に証明されていた.
トーラス,射影平面,クラインの壷[論文23]に対しても同様の定理が示されているが,
いずれの証明も個別の閉曲面に依存した議論に留まり,
一般的な閉曲面に対する定理を証明するのは困難と思われていた.
しかし,私が1994年に書いた論文[論文32]によって一般的な理論への道が開かれ,
多くの論文が生み出された.[論文31, 39, 46, 50, 51, 53, 55]
その基本的な命題は
「十分に頂点数が大きく等しい三角形分割は
対角変形によって互いに移り合う」という形をしている.
その証明のポイントは対角変形と辺の縮約を結びつけ,
辺の縮約に関して既約な三角形分割に議論を集約するところにある.
グラフ・マイナーの議論から導かれる既約三角形分割の有限性を利用して,
反例の個数の有限性を結論する.
なお,閉曲面上の計量に関する遠大な議論によって類似の定理が示されているが,
その定理においては三角形分割の単純性が無視されていることに注意したい.
私の研究においては三角形分割の単純性を維持することが重要な意味を持つ.
個別の閉曲面に対して上述の理論を適用し,
より具体的な命題を得るためには,
その閉曲面の既約三角形分割を分類する必要がある.
この対角変形の理論に限らず,
閉曲面の三角形分割の性質を研究する上で,
既約三角形分割の分類は極めて有用である.
すでに,球面,射影平面,トーラスの既約三角形分割は分類されているので,
私はクラインの壷の既約三角形分割を分類した[論文41].
それは全部で25個存在する.
その分類結果を利用してクラインの壷の5-連結な三角形分割が
ハミルトン閉路を持つこと[論文47]や
クラインの壷とトーラスの両方の三角形分割を与えるグラフの分類[論文49]を行った.
上述の閉曲面の三角形分割の対角変形の研究に触発されて,中本敦浩氏(現在,日本学術振興会特別研究員)は閉曲面の四角形分割の対角変形を研究し,それをまとめて博士論文としている.
●おわり● [1998/5/10]