グラフの点どうしの隣接関係を保ってそのグラフの絵を描いたとしても,
その絵の描き方は一般には1通りではない.
しかし,3-連結平面的グラフの絵の描き方は本質的には1通りであることが
古くから知られていた.
その現象を一般的な閉曲面上に描かれたグラフにまで拡張しようとすると,
いろいろな問題が生じてしまう.
私の修士論文から博士論文に掛けての研究は,
そのようなグラフの閉曲面への埋め込みの一意性を追求したものである.
その過程で,グラフの自己同型群による対称性が閉曲面上でも実現できるかどうか
という性質の重要性が浮上し,
それを埋め込みの一意性と対をなす概念として定式化し,
埋め込みの忠実性と名付けた.[論文1, 2, 4, 5, 7, 9, 10, 12, 13, 15, 21]
グラフの埋め込みの一意性と忠実性に関する研究の中で頻繁に行われている
辺の除去や縮約に関する議論や閉曲面上の閉曲線とグラフとの交点に関する議論は,
今日,RobertsonとSeymourを中心に盛んに行われている
グラフ・マイナーやグラフのrepresentativityの議論へと発展していった.
埋め込みの一意性とは逆に,
複数の埋め込みがどのようなメカニズムで生成されるのかという研究も動き出している
[論文42].
この分野はまだ発展途上であり,
世界的にも個別的な閉曲面の議論や単発的な現象の理解に留まっている段階である.
なお,このテーマで田沼孝雪氏(現在,慶応義塾大学博士課程)が
博士論文のための研究を続けている.
●おわり● [1998/4/29]
negami@edhs.ynu.ac.jp