第三の理/補足○
背理法

 まず,証明したい命題 A の否定 ¬ A を仮定して, 議論を尽くし矛盾を導く. ¬ A を仮定したこと以外には, 作為的なことをしていないので, その矛盾の原因はその仮定だと考えて, ¬ A が正しくないと判断する. したがって,その否定である命題 A 自体が正しいことになる. このようにして,命題 A を証明する方法を背理法という.

 例えば,学校の教科書だと, √2 が無理数であることを証明するときに, 背理法が登場する. まず, √2 が無理数でないとすると, 2 つの整数 a , b を使って,

√2 = a/b
と書ける. その両辺を自乗してみると,
2 = ( a/b )2 = a2/b2
となるが, 右辺が約分されて,分母の b が消えて 2 だけが残るためには, a が b で割り切れる必要がある. ということは, a/b も約分できて整数になるはずだ. となれば, √2 も整数だということになってしまう. でも,自乗すると 2 になる整数がないことは明らかだから, これは矛盾である. したがって,背理法で, √2 は無理数であることが証明されたことになる.

 しかし,ここで使われた論法を振り返ってみると, この証明は本質的な背理法とは言いがたい. というのも, 根号の中の 2 を n に置き換えてこの証明を追いかけると,

という命題が証明できるからである. つまり,次の命題の対偶を証明したわけである. 特に, 2 は平方数でないから, √2 も無理数になるのである.

 このように,世の中には, 実際は対偶を証明しているだけなのに,背理法だと称している証明が多い. そういう偽の背理法を見極めるには, 証明されている命題が「……ならば……」の形の命題に述べ直せるかどうかを 考えてみるとよい.

 では,どういう証明が本当の背理法なのか? それは遠大な議論の末にとんでもないところで矛盾が発生するという証明である. 普通の人がそういう証明に出会うことはまずないが, 専門的な研究の世界ではよくあることである. 例えば,ワイルズによるフェルマーの最終定理の証明も 遠大な背理法だと言えなくもない.


negami@edhs.ynu.ac.jp [1998/5/1]